R56 MINIクーパーは納車後2000キロを超えた。概ね月500キロを走る計算で維持しており、今のところ機関系統の故障はない。E60の530iに比べて極端に走る機会は少ないが、それでも一度火を入れたからにはじっくり走らせてあげるように心掛けており、お陰でこのクルマの素性が分かってきたのでレポートしよう。
駐車場に出る。小柄な角張ったボディはどこからみても「らしい」シルエットだ。
円形の電子キーを握りしめ、クルマとの距離1mの範囲内に入ったところですかさずボタンを押す。よし、今日は一発で開錠できた。少し固めのドアノブに力を込めたらドアが開いたと同時に数ミリ窓ガラスがスライドする。
タイトな空間に体を滑り込ますと、「はて?自分はこれからどこに行くんだっけ?」と一瞬困惑する。目から入ってくる情報がとにかく鮮烈で、仕事に行くには遊び心が出過ぎているし、近場の買い物に使うにはやたらと高揚感を煽ってくるのだ。頭の中を一旦リセットし、キースロットに鍵を差し込む。エンジンスタートボタンを押すと、ブルブルとエンジンが始動しメカニカル音の合奏が始まる。ゴクッ、ゴクッと固いシフトノブを手前に引きDレンジに入れれば、まるで遊園地のゴーカートのように動き出す…。
これはMINIが動き出すまでの一部始終だ。
心身共に元気でないと、このクルマに乗ろうという気は起きないだろう。これはBMWとメルセデスの対比構造に似ており、風邪を引いた時などは圧倒的にメルセデスが体に優しく合い、BMWはスポーツし過ぎてちょっとシンドイ。MINIはもっとシンドイのだ。五感で感じる情報すべてが濃い味付けだから、まだ5シリーズの方がマイルドに感じてしまうほどだ。
意地の張らないヤンチャ感
普段5シリーズに乗っている人がMINIに乗ると、すぐに運転のしづらさを感じるはずだ。
これはボディサイズ云々ではなく、圧倒的な視界の狭さにある。530iのフロントガラスがワイドで鋭角な傾斜角を持つのに対し、MINIのフロントガラスは70°くらいまでせせり立った形状をしており、大柄な人がドライビングポジションを取った位置からはさらに視界が制限される。体感で言うとjeepラングラーと同等の視界くらいだ。だがラングラーに比べてこちらは車高が低いときた。信号待ちでポールポジションなんか取ってしまった日には信号機がまず見えない。停止線よりずっと手前で止まることになるだろう。長距離を運転するにはちょっと厳しい。
とは言え、このクルマをメインで使う人からは概ね評判が良い。すこぶる運転はしやすいそうだ。振動や乗り心地、疲労感の少なさなどは5シリーズより何歩も譲るものの、何よりMINIを運転しているというワクワク感と、他のコンパクトカーに比べたらずっと乗り心地が良いという点である。目をつぶって乗ってみたら3ドアハッチバックとは思えないほど上質な乗り味を備えている。これは流石はBMWと言ったところか。
車内の収納スペースは決して広く多くはないが、必要最低限のものは確保されていると言っていい。ドア周辺の小物スペースやダッシュボード内に潜む小物トレイはMINI独特の世界観を崩さずにしっかり考えられているのが伝わってくる。欲を言えばセンタートンネルのところに乗用車と同じような肘掛けや小物スペースがあれば助かるが、後付けの専用品があるようなのでそれらを使ってもいい。2シーターと割り切って後席に秩序なくカバンをぶん投げることだってできる。言うまでもなく積載量は圧倒的に5シリーズだが、高いデザイン性があり痒い所に手が届くようなニクイ演出はMINIの方が勝っているように思う。これはBピラーのイルミネーション然りである。
コンパクトカーならではの基地感や囲まれ感は心地よく、トグルスイッチで統一されたボタン類も他に例を見ない。MINIにはあどけないヤンチャ感がある。それは高級セダンから醸し出される兄貴的なヤンチャではなく、まるで半ズボンの小学生が鼻づらに絆創膏を貼ったようなやんちゃ坊主なのだ。そしてその走りのサウンドは粗削りそのもの。MINIに乗ると、まだ大人になるのは早いと言われているようだ。
R56はおすすめできるか
果たしてMINIは万人受けするXSクラスなのだろうか。
ライバル車種で言えばA1(Audi)やMiTo(Alfa Romeo)、500(FIAT)等が挙がるが、使い勝手を考えるなら、国産のコンパクトカーや軽自動車の方が日本的で扱いやすい。やはり3ドアならではの不便さがどうしても出てくる。よってファミリーでのファーストカーを張るにはちょっと荷が重いということになる。ただMINIに乗りたい確固たる理由をお持ちの方はブレることなく乗るべきだろう。MINIの世界観はハマればもうこれ以外考えられないくらい中毒性がある。逆に言えば何となくで手を出すと、その中毒性が消化不良を起こし乗りこなす前に胃もたれを起こしてしまう。
それ一台でカバーしようとせず、割り切った使い方ができる環境ならばおすすめできるクルマと言えるだろう。ただ一言付け加えておきたい。セダンに乗り慣れた人が運転する場合、それは普段扱いなれたサラブレッドではないことを。時にそのやんちゃ坊主はロデオの様に、我慢比べを強いられることになるかもしれない。