tokainorookie’s blog

やさしい輸入中古車を買って人生に彩りを🇮🇹

名機を味わい尽くす -N52B30Aの真髄に至れるか-

直列6気筒と言えば、日産のRB26DETTが日本が誇る名機と言われているし、トヨタの2JZも良くできた直列6気筒エンジンの代表格と言える。バランサーシャフトを用いずとも振動を打ち消しあう構造上優れたエンジン型式というくらいで、私自身は直列6気筒への造詣が深いわけではない。それは今までの車歴の中で直列6気筒に触れる機会が少なく、すべて直列4気筒搭載車を乗り継いできたからだ。

 

振り返ってみると直列4気筒は日産のSRエンジンシリーズが長かった。

SRエンジンは当時の日産の主力で、恐らくはSR18Diから始まりSR20DEときて、180SXやシルビアと同じエンジンというのがちょっとした自慢だったのを覚えている。もちろんこれしか知らないので比較のしようがないわけだが、直列4気筒は非常に扱いやすく2Lくらいの小型セダンが好みだった自分からしてみれば不満などない。

そしていい意味で概念をぶち壊してくれたのが、2011年から乗ることになった初BMWで直噴のN43型(直列4気筒)だった。このN43B20A型はスペックは170PS/6700rpm、210Nm/4250rpmと素っ気ない感じではあるが、実際に運転してみるとカタログ数値以上のパワーを感じてストレスなく運転を楽しめた。VW乗りの先輩によれば、欧州ではカタログ値以下の実パワーでは訴訟問題になるとされ、最低でも170PS以上は出ているはずだという。実際に測ったわけではないが、これは体感でわかるくらいであった。

 

さて日本においてエンジンの名機というと、数字とアルファベットを組み合わせた〇〇〇〇型という単一系統で表されることが多い。ところが何故かBMWに限っては、直列6気筒はすべてシルキーシックスと一括りにされ、エンジン屋BMWが製造するシルキーシックスは名機であり至高と謳われる。紐解いてみれば広義の意味でも狭義の意味でもシルキーシックスの定義はさまざまで、その中でもエンジンモデルによって評価が混在しているのが事実である。つまりシルキーシックスの中のシルキーシックスがあったりするわけだが、そんなことにいちいちウンチクを傾けるのはよっぽどの変態さん(自分を含めて)なわけで、BMW直列6気筒=シルキーシックス=名機という構造が一般的な解釈であると思って良い。もちろんこの解釈が浸透している裏付けとして、時代と逆行するような形でもBMWは頑なに直列6気筒にこだわり続けたというブランドポリシーが付いて回っていることを付け加えておこう。

 

4気筒から憧れの6気筒へ

駐車場でも独特のオーラを放つ

そんなブランドの核というべき直列6気筒をいつかは味わってみたい。その機会はE46からE90(323i)に乗り換えた知人によってもたらされた。323iには2.5LのN52B25A型が搭載されE60の525iと同じエンジンだが、なぜかセダンのみパワーを抑えた323iとして存在するニッチなモデルだ。ちょうどその時私は同じE90のN43に乗っていたから乗り比べをするには適時であった。だがこの時の私はあまりピンとこなかったのを覚えている。同じボディに2気筒分エンジンが重くなっている。フロントヘビーは如実に感じられ、かといってパワーは+7PS、トルクは+2kgmであるから体感的にはかなりもっさり感じられた。これならハンドリングを楽しめる直列4気筒の方が自分には合っているなと、改めて愛車の良さを痛感したのであった。

clubmini.jp

それから数年が経ち、E60に乗ることを決意する。デビューした時から大好きだった。東雲のカー用品店には当時まだ珍しかった輸入車コーナーがあり、E60のヘッドライトが堂々と飾られていたのを覚えている。16年越しに憧れのクルマに乗れる。いけるならS85B50Aを搭載したM5…。いやいやそれはまた次の目標として取っておこう。自分には530iだって十分すぎる。そして調べると、ほうほう。正真正銘のシルキーシックスだ。しかも最も高出力に仕立てられたモデルでどうやら最後のシルキーシックスと言われているらしい。味わうなら今である。俄然私の胸は高鳴るのだった。

 

だがここでもやはり私は戸惑った。今になって思えばそれはシルキーシックスという言葉が持つ破壊力によるものだろう。至高であり至宝。今となってはもう作られないエンジン型式、脱ガソリン車の流れ…。そんなフレーズが頭の中をめぐり私のE60に対する期待値はどんどん上がっていたが、実際乗り始めてみるとこのN52B30A型エンジンはあまりに普通のエンジンだったのだ。普通過ぎて面白くなかったのである。元々BMWが作る直列4気筒エンジンは他社の直列4気筒に比べて出来が良いのは周知の事実だ。だから私はその出来の良い直列4気筒に長く乗り慣れていた為に、直列6気筒との違いや素晴らしさに気づけなかったのである。シルキーシックスという言葉がブランド化され、言葉が独り歩きしているのではないか、本音を言えばそんな風にまで思ったのである。

 

直列6気筒を積んだクルマならではの重さは3シリーズのそれに比べてE60はさほど気にならなかった。元々Eクラスとライバルになる車格だ。カジュアルでスポーティなキャラクターではない。自重なのか味付けなのか、5シリーズに乗って最初に感じたことは「重厚」。それまでの「軽快」に走る320iとは明らかに違い、初めてMスポーツの強靭な足回りを噛みしめた。なるほど、タイヤの違いもあるだろうがスポーツサスペンションらしいコツコツした感じと引き締まったバネストロークを感じる。経年によるヘタリも若干感じられたがこれは味として許容できた。エンジンフィールは至ってナチュラルだ。サラサラと回るエンジンに引っ掛かりは一切感じられず、ペダルを踏み込めば力強くも品のある加速を披露してくれる。そして手首のスナップだけで曲がれてしまうアクティブステア。運転をすると大きさを感じないというレビューはあながち間違ってはいなかった。

 

心酔できるまで味わい尽くそう

E60と出会い間もなく3年が経過しようとしている。私は未だこのエンジンの本質にたどり着いておらず、真髄には至っていない。だがMINIを迎え入れたことで見方に変化があったのは事実だ。

このエンジンは非常に良くできたエンジンである。エンジンの2気筒分が前方車軸の前にあり限りなく50:50の搭載バランス。一旦動き出せば重さを感じることはなく、全ての回転域で厚みのあるトルクが顔を見せる。アクセルペダルに足を乗せて数ミリ踏んだだけで時間をかけずに法定速度に達する。しかもストレスなく、だ。スケート靴を履いた選手のように実になめらかな加速である。乗り手を選ぶ性格ではない。ただただジェントルだ。荒々しさはMシリーズに任せて530iはどこまでも紳士的。ホテルのディナーの後に女性を乗せて首都高を走るなら、私は迷わず530iを選ぶだろう。

もし、これからアナタがこのエンジンに惚れ込んで5シリーズを選ぶとしたら、過度な期待はせずフラットな目線でこのクルマと接することをおすすめしたい。もしアナタが冒険好きでアバンチュールなタイプならドイツ車ではなくイタリア車がおあつらえ向きである。

心酔できるまで味わい尽くしたいー

もしかしたら私には長く親しんだ直列4気筒のフィーリングが肌に合っているのかもしれない。だが一度シルキーシックスの(濃い赤身を食べているかのような派手ではないけど奥深い)旨味を味わってしまったからには、エンジンに惚れ込むまで付き合っていきたい。その真髄に触れたとき、きっと心酔できると信じて。