お店に見に行った初めての出会いから丸1年。
憧れの名車を手に入れた!
いつかは乗りたいと思っていたアガリの車クアトロポルテ。しかも現行型ではないクラフトマンシップが色濃い5代目が私の目標だった。BMW E60も味わい深いクルマで大変気に入っていたが、一言でいえば満足しきっていた。シルキーシックスの前評判が良すぎていたのもあるだろう。車検を受けた辺りからぼんやりとマセラティへの誘いを受け始め、1年半の時間をかけて購入に至った。もちろん用意周到に情報収集とシミュレーションを繰り返した。
そしてご縁があったのが他県のお店だった。正直言って最初は、この個体じゃないだろうなと思っていた。求めていた方向性と真逆のグレードだったからだ。シートマテリアルはまさにRosso!といわんばかりの情熱の赤にカーボンインテリア。高貴なザ・イタリア車の外観にはどうも似つかわない、自分がコレに乗っているイメージができなかった。走行距離も聞いていたよりも多く10万キロを超えていた。しかし人間の思い込みというのは実にあてにならず、どんどんいい方向にバイアスが進む。結局私は、おそらく常識人だったらまず買わないだろう部類に入るこのクルマに手をつけてしまった。それでも言い訳をしておくと、注文書にサインをするまでに1か月、足を4回運び、この人(社長)になら騙されてもいいやくらいに思っていた。そのくらい、伊系日本人を自負する社長は魅力的に思えた。
珍しい前期フェイスのスポーツGT S
ポルシェにもあるGT Sというグレードは各社スポーツグレードの最高峰として君臨する。マセラティでもご多分に漏れず当時のトップグレードとなり、このグレードは後期型の4.7Lのイメージが強いが実は初見はマイナーチェンジ前の2007年がデビューとなる。
メッシュグリル、ドアモール、マフラーエンドがブラックアウト化され、車高もフロント10mm、リア25mm下げられている。ピレリ製タイヤも専用設計となりスカイフックサスペンションを捨てたがブレーキキャリパーは6ポッドと強力なものを装備。制動一式はブレンボとの共同開発というからスペシャリティ感は満載である。またセンターコンソールにはSPORTモードボタンがあるが、後期型のバルブが開いて云々などの演出はなく、私がわかる範囲ではギアチェンジのタイミングが通常より遅くなり回転数を引っ張って走れるくらいのギミックである。前期フェイスでトルコン式も珍しいが、かつその中でもさらに珍しいスポーツGT Sグレードとなれば控えめに言っても希少グレードと言えよう。
また本来GT Sではシートはレザーとアルカンターラのコンビシートとなるが、こちらはあえてのフルレザーがチョイスされており、スポーツと言えどしっかり上品な艶感のある内装の仕立てとなっている。コーラルレッドは派手すぎて普段乗りするにはどうかなと躊躇もしたが、いやはやコレぞラテン車と言わんばかり、どうせマセラティに乗るならこのくらいは振り切っていて良いと思えてきた。
まさに官能的なM139エンジンの唸り
よくマセラティは官能や妖艶、貴婦人という言葉が使われる。その理由は優雅なスタイリングもさることながらやはりエンジンだろうと思う。クアトロポルテは4ドア・フェラーリとも言われており、フェラーリ直系の心臓部は、F430のエンジンとほぼ同じ(デチューン版とも言われるが一説ではクアトロポルテ用が先でフェラーリ用にハイチューンドされたのがF430に載ったとも)で、節々にスーパースポーツの息吹きを感じることができる。特に3500rpmから1オクターブ上がる明確なスィートスポットがあり、セダンらしからぬ美声を聞くことができる。左右2本出しのマフラーから発せられる音色はさながら管楽器のそれであり、ストラディバリウスが奏でる周波数とほぼ同じというデータもあるようだ。
このフェラーリエンジンとピニンファリーナデザインの融合こそ、クアトロポルテの孤高さと唯一無二さを際立たせており、そこに儚さというスパイスが加わってマセラティクアトロポルテが成り立っている。実用性がある中で突き抜けた個性を持つクアトロポルテ。出会いから1年、理想のクルマに出会えた奇跡に感謝したい。